特別対談 弁護士 下元高文氏×丸橋伸行

「ボロボロ看板」との出会いが弁護士キャリアの転機に

下元 丸橋先生とお会いするのは久しぶりなんですが、全然そんな感じがしないです。ホームページを拝見してますし、看板もお見かけするので。

丸橋 看板を見て会ってる気がするというのは、よく言われます(笑)

下元 そもそも丸橋さんと僕の出会いは、あの看板なんですよね。何年前になるんでしょう。広告会社の人から「保健所に通してほしい」とデータを託されたのが最初でした。衝撃でしたよ。「歯がボロボロ」というどぎついキャッチコピーと、ニカッと笑ったガッツポーズの写真。最初に思ったのは、「突っ込みどころが多すぎる」と…。

丸橋 「無茶いうな」というお気持ちだったと思います(笑)
媒体の広告審査にひっかかって、「保健所のOKが取れたら掲載してもいい」と言われ、困って下元さんに依頼したんですよね、2016年でした。歯科の広告は自費診療に関するものが多いです。お金をかけるのだから、単価の高い診療をアピールするのは当然ですね。そこで、あえて保険診療を謳った広告を本気で作ったら、どんな結果になるだろうという興味がありました。

下元 当時、僕の医療広告に関する経験は浅かったのですが、あの看板を見て、大きな挑戦をされているなと、そのすごさは充分に感じました。僕は今日、丸橋先生に改めて感謝を伝えたかったんです。弁護士として20年のキャリアの中で「これが自分の転機になったな」という仕事がいくつかあって、その1つがあの広告なんです。おかげ様で今ではかなり医療広告に強くなりました。

丸橋 こちらこそありがとうございました。あのとき、僕は僕で下元さんに書いていただいた意見書に衝撃を受けたんです。詳細な文面は忘れましたが、「まず歯が悪くなっても歯医者に行きづらいという社会実態があるんだと。「重度歓迎」というのは、そういう人たちに来てもらうための表現であり、ひいては医療が行き渡る、この看板にはそういう社会的意義がある」といったことを書いてくださっていて。あの意見書は気迫がすごかったです。結局ほとんど直さずOKが出たんですよね。

下元 ほぼ直さずにいけましたね。最初は保健所の人も最初は「え!」と、「よくこんなの持ってきたな」という感じがありましたが(笑)あの看板がよかったのは、やっぱり丸橋さんの強い思いがあったからだと思うんです。

広告塔として顔を出す。その結果、得られたもの

丸橋 もし自分が患者さんで、虫歯や歯周病を何年も放置していたら「歯医者に怒られる」と思うんじゃないかなと。そこに対して、歯科医師として「怒らないですよ。来てくれたら嬉しいですよ」と伝えたかったんです。

下元 そういうお考えのもと作られた看板だから、いいんでしょうね。あと、とにかく写真がいいんです。いまでは看板が街中にあって丸橋先生を見かけない日はないくらいですが、最初は顔を出すことに抵抗もあったのではないでしょうか?

丸橋 とくに抵抗はなかったんですよね。もともと「顔は出すべき」という気持ちがあって。

下元 え、そうなんですか。

丸橋 はい、抵抗はなかったです。もし僕が大きな病院の理事長だったら違ったかもしれませんが、いまの規模だったら僕が広告塔になるのがいいだろうと。アパホテルの社長さんなんて、あの規模になっても出られてますし。僕としては、恥ずかしさより、どんな結果になるかを見たい気持ちが強かったです。

下元 すごいです。僕もいまはホームページで画面いっぱい顔を出してますけど、それをやるようになったのって丸橋さんの看板を拝見した後なんです。やっぱり顔は出すべきだなと。丸橋さんの看板から、自分の顔と名前で仕事をしている人の覚悟というのを感じたんです。

丸橋 患者さんに来てほしいですからね。「なんであんなに看板出してるんですか」っていまもたまに聞かれるんですけど、患者さんに来てもらうため。それしかないです。

目立つことによるデメリットも「勲章」と受けとめる

下元 顔を見て「この人に任せたい」と思ってもらう。顔出しの効果って大きいですよね。
何年か前に先生のセミナーを見させていただいて、印象に残ったのが、歯科クリニックの売上分布の話でした。まず何千万円の医院がたくさんあって、そこを突き抜けた1億円のラインがあって、さらに突き抜けて2億円ラインに行くという。僕の体感で弁護士と分布が似てるなと思って印象に残っているんですけど、丸橋さんはあの看板による集客で売上2億円を超えられたんですよね。

丸橋 そうです。看板の力は思った以上でした。顔を出した甲斐がありました。その後、ネットパトロールも来ちゃいましたけど、それも「それだけ注目してもらえたんだ」という勲章かなと。

下元 ネットパトロール来ましたね。でも、保健所の方とも非常に和やかにお話できて、何も大変なことはありませんでした。そもそも保健所の方の根底にあるのは地域医療をよくしたい気持ちだと思うので、歯医者さんと敵対関係ではないんですよね。

丸橋 そうなんです。敵ではないですね。ときどき同業の先生から「保健所ってこわくないですか」と聞かれるんですけど、僕は広告学の本の中でも「保健所は絶対に通すべき」と言っています。話したら分かってもらえる事が多いし、何しろうちの看板がいけたんだからと(笑)

下元 もしNGが出ても、じゃあどういう表現ならいけますかとディスカッションできますしね。

丸橋 そうなんですよね。僕の場合、ディスカッションは下元さんにお任せしっぱなしですが。

下元 じつはそこも、僕が丸橋さんすごいなと思うところで。よく依頼者さんから「こんな相談したらアカンと思って」といわれることがあるんですね。ご自身でなんとかしようとして、なんともならず、ぐちゃぐちゃにこじれて初めて「実は」と打ち明けられる。そういうケースが多いんです。でも、恥ずかしがらずに早く相談してくれたら順番に対応できるじゃないですか。丸橋さんはその点、すごくうまいんです。「ネットパトロール来ちゃった。よろしく」みたいな。そうやって人に任せられるのは大きな強みだと思います。

丸橋 人に任せられることは任せる、抱え込まないって大事なんでしょうね。「歯科キャリア学」のテーマもまさにそこで、やることを取捨選択して、回り道をせずに成功しましょうと。「ネットパトロール来ちゃった。よろしく」でいいと思うんですよね。

下元 あともう1つ、丸橋さんの大きな強みは、「歯医者枠」からいい意味ではみ出ていることだと思います。ボロボロの看板にしても、この歯科キャリア学にしても、医療広告で規制されるようなところとは別の枠で勝負されているように見えます。

丸橋 枠から外れたいとは思ってないのですが、ボロボロ看板を出した当時は、同業の先生との交流がほとんどなかったんです。いま思えば、だからあれだけガーンといけたのかもしれませんね。

【プロフィール】
弁護士・下元高文

大阪生まれ。中小企業の法務に携わるほか、のぶ歯科との出会いを機に医療広告を徹底研究。
歯科院長向けの法律相談も多く手掛ける。
平成12年3月 京都大学法学部卒業
平成11年11月 司法試験第二次試験合格
平成11年11月 司法試験第二次試験合格
平成12年4月  司法修習生(第54期)
平成13年10月 大阪弁護士会登録
平成20年4月 田中・下元法律事務所設立
平成29年4月 弁護士法人ニューステージ設立