「名医になりたかった…」私がさまよった9つの道

歯科キャリア9つの道(個人の主観です)

33歳くらいまでは右上の「スター」に憧れていました。技術を追求して名医になりたい、経営者としても抜きん出たい。しかしその後、道をさまよい、方向転換をして、今に至ります。

1.スーパー経営者

スーパー経営者とは、「1医院でチェアーを20、30台も備えたり、いくつも分院展開している先生」と定義している。本来、歯科は規模化に向かない業種だ。そのような業種で規模化できるのはスーパー経営者である。規模を拡大するというのは極論すると「不確実性」を抱え込むということ。拡大しても思ったほど患者が来ない。スタッフが集まらない。事故が起こるかもしれないetc.。

不確実性とライセンス業は相性が悪い。そもそも歯医者というのは産業構造として拡大に向いていない。そこをあえて大きくするには、「すごいと言われたい」という強い承認欲求と、それを実現するだけの才能や覚悟が必要だと思う。

チェアー台数、売上、分院数、スタッフ数。「大きい」「多い」というのは圧倒的事実だ。実際に分院を4つも5つも展開している先生と話すと、すごいなと感じる。ある先生は「いつでも患者の家に行って土下座する覚悟がある」と言っていた(勤務医のやらかしへの対応)。

実は私も「規模化」に憧れて、この道に行ってみようと思ったこともある(憧れと同時に実利も求めた。大きい方が集患にも採用にも有利だと考えた)が、心のどこかでストップがかかった。

誰かの「やらかし」の責任をかぶって土下座できるか?

自分の目の届かない場所に分院があることに喜びを感じられるか…?

本当に大きくしたいか?

大きくなったように見えて、実は患者が少ないハリボテクリニックだと思われたくない。

など、ネガティブな考えばかりが出てくる。この時点で私は拡大には向いてないと言える。

私は持ち物をたくさん持つのが嫌な性格だった。身の回りをできるだけスッキリさせておきたい。目の届かないところに管理しないといけないものが増えるというのは大きなストレスになると思った。自分が向かいたい方向で遭遇するストレスは乗り越えれるが、そうでないストレスはただの負担だ。40歳手前でそれを自覚し、結果として選んだのがいまいるポジション「みんなで稼ぐ」だ。

2.みんなで稼ぐ

院長も勤務医と同じように治療をしながら、オペレーションを最適化し、生産性を高める。マネジメントに苦手意識がない、効率化が好きな先生は、このスタイルが合っている。チェア台数の目安は10台前後。保険診療に自費を上乗せして年商2億〜3億はいける。

のぶ歯科は、2014年頃からこのスタイルでやっていて、今もここに落ち着いている。

チェアー8台、勤務医スタッフ20人でみんなで稼ぐスタイルだ。私はスター開業医にもスーパー経営者にもなれなかったが、院内のオペレーションを作るのは苦痛でなかった。新しい機械や診療を導入したら、どうやって運用するか、どうやって患者さんに説明するか、とかを考えるのは楽しい。今後心変わりするかもしれないが、今の所はこれでいいと考えている。…これでいいというか、じつは今のところ大変気に入っている。色々な道をさ迷ってきて、こんないい道があったのかと思う。やること明確。気持ち的にも楽。そしてちゃんと稼げる。みんなで稼ぐために大事なのはいかに集客するかでそれは広告で伸ばした。

(※のぶ歯科の広告について、詳しくはこちら(YouTube動画)やこちら(サイト内別ページ))

とはいっても採用の悩みは尽きない。今でも技術や規模への憧れはあるし、すごい先生に会うと羨ましいと思う。もしかすると「すごいと言われたい」という承認欲求を看板で満たしているのかもしれない(笑)。

今はこの「みんなで稼ぐ」スタイルが気に入っているし、当面はこのままいく予定。だけどほかの枠も気になっているのも事実。年齢によって変わるものかもしれない。

3.スター開業医

何をもって「スター開業医」とするのか、明確な定義は難しい。技術、実績、売上といった裏付けも重要だが、それ以上に必要なのがカリスマ性だ。あえて定義するなら「卓越した技術を武器に業界で有名な先生(しかも儲かっていそう)」だろうか。

スターにはキラキラ感が欠かせない。キラキラ感を出すためにはいい意味での自惚れも必要だと思う。勤務医時代のセミナーで、いわゆるスター開業医と呼ばれる先生を見るにつけ真似をした。真似をした自分を翌日振り返って恥ずかしくなる。悩んだ挙句「自分は絶対なれないな」と思った。病的とも言える追及の姿勢、自分が世界一と信じる力、そういった思い込みがないと到達できない世界だと感じた。

最初に「スター開業医」を定義するのは難しいと書いたが、そもそも9マスの右上は本当に存在するのか?という疑いも持っている、技術力も経営力も抜群のスター。それは実在しないアイドル?みたいなものかもしれない(と考えることで、そこに行けなかった自分を慰めているのかもしれない…)。

4.ひとまず開業

ある統計データによると、歯科医師の2割が35~36歳までに開業し、その後50代までに7割が開業するらしい。私の周りでも35歳までに、40歳までには。などの声が多い。ちなみに私は32歳で開業と決めていた。特別な理由はなく、決めておかないとズルズル過ごしそうだったからだ。

また、開業にはまずお金がかかる。地域差もあるが、チェア2~4台くらいの医院を開業するのに大体5000万円〜8000万円かかる。借金するなら若い方がいいとも思っていた。

私は「32歳で開業」と決めていたので、ひとまず開業した。開業はしたものの、最初は何をしたらよいのか全く分からなかった。勤務医の時は患者が目の前に運ばれてきた。それが全部ない。当たり前だが、ゼロから自分で作らないといけない。ターミナル駅の真ん前でもない限り、待っていたら患者さんが来るわけではない…。

開業1年目は、月売上200万円程度、患者さんゼロの日もあった。歯科医院は患者が来て初めて売り上がる仕事だ。売上が低いのは、世の中から必要とされていないことと同じことと思え、とても寂しく感じた。また、この売上だと、借金返済した後の院長手取りは、40〜50万円程度で、経済的には勤務医の時と変わらない。これもつまらない。

単純に「もっと稼ごう」と考え、次のステップを目指すことにした(そして血迷った私が目指したのは「名医」だった…)。

5.ひとり親方

院長1人、スタッフ数人のゾーン。ひとまず開業した先生は自然にこのゾーンに来るだろう。実際、多くの開業医はここにいる。ここに留まるか、別のゾーンに行くかは、先生の好みだ。私は何となく留まるのが嫌だったので、別のゾーンに行くことにしたが、なんで留まるのが嫌だったのかは実はよく分からない。

「ひとり親方」という響きにはカッコよさがある。歯科医師のライセンスとも相性のいい、ひとつの成功モデルではないだろうか。

6.院長のパートナー

院長のパートナーとは、私の定義では、院長が1ヶ月不在でも医院を回せる人材。1か月というのはレセの締めまでをイメージした期間だ。ポジションで言えば副院長か分院長である。

ところで、「パートナー」の役割は医院のスタイルによって変わる。たとえば、分業化している医院と、していない医院とに分けて考えてみよう。

分業化している医院の院長の仕事の一つは、分業がスムーズに動いているかチェックして改善することだ。だからそうした医院のパートナーの役割は、分業のチェックと改善である。

一方、分業化していない医院は院長が全て指示を出している。だからパートナーの役割は、指示を出すことだ。ここで大事なのは院長と180度異なることを言ったらスタッフが混乱するので、指示は院長に寄せた方がいい。自分の色を出すのは控えよう、ということになる。

ちなみに、私自身は副院長も分院長も経験せずに開業した。だから、このゾーンはカスリもしていない。勤務医時代の先輩など「院長のパートナー」的な活躍をしている先生を横目に、自分自身ではここを経験せずに「ひとまず開業」に飛び移った。

結果、いざ開業して、最初は何をしたらよいのか全くわからなかった…。

7.まったり勤務医

令和4年現在、この選択肢は多いにありだと思う。まったりといっても勤務中にのんびりするという意味ではない。診療もがんばる。休むときは休む。オンオフ切り替えてストレスかかりすぎない環境で勤務医として一生を終える道。一般企業だとこのパターンは多い。歯科医師というライセンスとも、このスタイルは実は相性がいい。歯科医師のライセンスさえ持ってたら来て欲しい!というクリニックはたくさんある。

ただし、上に書いたのは現代の話。私が卒業した1999年は、大学勤めでない限り、一生勤務医で過ごすという選択肢はなかった。東京ならあり得たかもしれないが、神戸では考えられなかった。

勤務先の院長に息子さんがいたことも、勤務医を続ける気にならなかった理由だ。息子さんが歯科医師になって後継となった時、父親の代からの勤務医は邪魔になるのでは?と考えた。息子さんが私を邪魔に感じる時、私は50歳を過ぎる。オッサンになって放り出されるリスクは犯せなかったので、勤務医としてまったり過ごすプランはなかった。

平成のあの時代、勤務医に留まる道は私の前になかったのだ。

いまだったら非常によい選択肢だと思う。何より、そういう先生がうちに来てくれたら大変うれしい。

8.頑張る若手

歯科医師の仕事は、「勉強」と相性がいい。

勉強すればできることが増える。できることが増えたら収入が増える。この因果関係が強いのは歯科医師のいいところだと思う。(ここはもうちょっと膨らませたい)例えばブリッジのケース。単にパラブリッジを入れるよりも、セラミックブリッジの方がキレイだし汚れもつきにくい。そうするとセラミック形成や接着の知識が必要になる。小矯正ができたら支台歯の位置を理想的な位置に配置してからブリッジできる。矯正の知識も必要だ。やるかどうかは患者さんの懐次第だが、そもそも、こちらに手札がないと提案すらできない。だから、勉強してできることが増えたら収入が増えるのだ。

勉強すればできることが増えて稼げるようになる。

だから、私も勉強した。勤務先がセミナーに参加したり、新しいことを導入することを良しとするのも影響した。自分が成長すれば医院の経営にも貢献できると考えていた。

いまも頑張ってますよ。若手じゃなくなっただけです(‘ω’)

9.技術追及

歯科医師として技術を追求する道。その先には素晴らしい人生の成功が待っているのではないだろうか。前述のとおり、歯科医師の仕事は勉強と相性がいい。勉強すれば、できることが増える。出来ることが増えたら収入もついてくる。

イメージとしては、たとえば欠損補綴なら、骨が充分あるならインプラント、そうでなければデンチャーを選択する先生が多いだろう。しかし、骨造成できる先生なら、悪条件下でもインプラントできる。収入は当然増えるはずだ。

矯正も同じである。GPにとって矯正はハードルが高いが、勉強すればできるようになる。すると、子供の歯並び相談を受けても「様子を見ましょう」とお茶を濁さずに、Ⅰ期治療の提案ができる。現在はカリエスが減って、マウスピース矯正がメジャーになっているので、一昔前よりも矯正需要は増えている。勉強すると収入は増えるだろう。

私は、卒業直後はスゴイ技術を身につけることが今後の人生の成功につながると考えていた。しかし、技術をとことん追求することや、多くの先生ができない技術を身につけることは、早いうちに諦めた。周りにいた先生が優秀すぎて、元から持っている力の差を見せつけられたからだ。

卒後5年目の時、2つ下の同僚と歯周外科のセミナーに通った。そこで彼はブタのフラップを涼しげに3枚におろしていた。私のブタは、短冊のように見るも無惨にボロボロになっていた。

3つ下の同僚は大画面に光り輝くピカピカの形成を映し出していた。私がどんなに頑張ってもあんな形成はできないと思った。

先輩には左右両刀使いの先生がいた。どんな角度でもタービンを口に入れることができて、恐ろしく上手かった。

練習し経験を積めば、技術は上達するだろう。しかし、彼らも上手くなる。スタートのセンスが違うし、上達速度も彼らの方が早いと感じた。スゴイ技術で勝負できるのは彼らのようなタイプだ。だから、彼らと同じ土俵に登ることは考えなくなった。技術の上達は常に意識するが、マニアックに深掘りをするのではなく、診療の幅を広げることを心がけた。

技術の深掘りは必要だが、マニアックすぎる深掘りは、実務上不要なことも多く、むしろ趣味の領域になる。実務上必要なレベルまでは深掘りして、次は新しい診療を取り入れた方が、多くの患者さんに対応できると考えた。

ところで、深掘りをデフォルトと判断するか、マニアックと判断するか、その違いは何だろうか?例えば「骨造成は深掘りでもなんでもない」と感じる先生もいる一方で、簡単なインプラントは自分でやって、骨造成を必要とするケースは紹介する先生もいる。この違いは性格の違いだ。外科向きの性格や攻めた診療が好きなら骨造成はデフォルトの診療となるが、そうでなかったらマニアックに見える。

また、先生ができるできないではなく、経営的判断でやるやらないを決める場合もある。インプラント集患が得意な医院ならケースが多いので、骨造成はデフォルトのオペレーションになるが、そうでなかったら、たまにしか扱わないレアな診療になる。デフォルトなら材料が回転して消費されるので、やるべきだが、レアなら使わない材料が消費期限を迎えて破棄することになるので、やらない選択もアリなのだ。